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Vol.44:誰でも学べる 命を救う技術 ~CPR(心肺蘇生)とAED(自動体外式除細動器)~

「CPR*」と「AED*」。皆さんの会社で定期的に救命講習を受けている方もいらっしゃるかと思います。そうでない方も、1994年に自動車運転免許取得時の講習が義務化され、また同時期に高校の授業でも必須となったので、大抵の皆様はこれまでに1回か2回は講習を受けたご記憶があるのではないでしょうか。
* CardioPulmonary Resuscitation、Automated External Defibrillator

私はこれまで救命救急の業界にいた関係で、突然の心肺停止から生還した方、実際に救命を行った方、そして家族や友人を失ってしまった方々にインタビューする機会が多くありました。その中で皆さんが共通して仰っていたのは、「まさか自分が当事者になるとは・・・」という一言です。

心肺停止は病気だけが原因ではなく、スポーツやレジャー中の事故がきっかけで起こることもあります。いざというときに備えてぜひ救命講習を受けておいて頂きたいのですが、MRとして医療に関わっている皆様におかれては、更にもう一歩踏み込んだ内容として、心肺蘇生とAEDを軸とした病院外救急に関する現状と最新トピックを知っておいていただければと思います。

1.日本は世界一のAED普及率
AEDとは自動体外式除細動器と呼ばれ、いわゆる電気ショックによって心臓の拍動を正常化させるための医療機器です。心停止を招く不整脈の一種である心室細動などの治療に有効で、2004年から一般市民も使えるようになりました。日本はAEDの普及率世界一といわれており、医療機関や消防機関を除く公共の場所(商業施設や学校、駅、空港など)には全国で合計50万台以上のAEDが設置されています。

2.AEDの普及率ほど心肺停止症例の救命率は高くない
これだけAEDが普及しているならば、さぞ救命率も高いかと思いきや、世界的な比較では残念ながら上位ではありません。少し統計データを見てみましょう。

日本では、全国の消防本部にて、病院外の心肺停止症例のデータ収集が行われており、総務省消防庁が分析結果と共に毎年ホームページで公表しています(因みに全国でデータを取っている国は世界でも稀です)。平成28年のデータを見ると、心疾患によって病院外で心停止となった方は全国で1年間に約75,000人であり、このうち一般市民の方が現場に居合わせたのはおよそ1/3、約25,000人となっています。これが「周りの人によって救命できる可能性がある」母集団となります。

では、周りの人(バイスタンダーと呼ばれます)が心肺蘇生を行ったか否か、あるいはAEDを使ったか否かで救命率はどのくらい差がつくのでしょうか?

<総務省消防庁による全国統計より抜粋1)

ご覧のとおり、
・バイスタンダーによる心肺蘇生が行われた場合、生存率は約1.8倍、社会復帰率は約2.4倍
・バイスタンダーによりAEDが使用された場合、生存率は約4.7倍、社会復帰率は約6.6倍
となっています。

AEDが適切に使われれば救命の確率は大きく向上します。しかしお気づきかと思いますが、問題は使用率の低さです。世界トップレベルのAED設置台数にもかかわらず、実際の使用率がわずか4.7%に留まっているのは何故でしょうか?これは市民への啓発や教育普及の余地を示しているだけではなく、そもそも病院外での心肺停止は7割が自宅内で発生しているという点、また公共の場にあるAEDは夜間や閉館日などの場合にアクセスできないという点など、幾つかの原因が存在します。

3.救命率向上のカギはバイスタンダーによる心肺蘇生
AEDが適切なタイミングで使われれば、より高い確率で救命につながる可能性がありますが、1分経過ごとに救命率が20%低下するといわれる突然の心肺停止の状況でまず優先されるのは、119番通報して一刻も早く心肺蘇生を開始することです。

デンマークとノルウェーで行われたリサーチによると、病院外心肺停止における生存率・社会復帰率に最も大きく貢献するのは、AEDの普及率ではなくバイスタンダーによる心肺蘇生の実施率であることが分かっています。この実施率は前述のとおり日本で56%なのに対し、世界的に先進的とされる地域(シアトルがある米国ワシントン州キング郡、およびデンマークやノルウェーをはじめとした北欧諸国などが有名)では80%を超えるところもあり、生存率・社会復帰率も日本の倍以上を誇ります。

日本国内でも、救急医療に関わる専門家の方々のイニシアチブによって、救命率向上へ向けたさまざまな取り組みが行われています。現在、ベースとなる心肺蘇生・AED講習の普及活動に加えて、通信司令員(119番通報への対応をする消防職員)が心肺蘇生の方法を電話越しに口頭で救助者へ伝えるための教育や、通報者のスマホから位置情報を割り出して最寄りのAED情報を表示すると同時に、近くにいるボランティアに助けを求めるアラームが自動的に届くアプリの開発などが進んでいます。

皆さんが普段接する医療従事者の方々は、ほぼ全ての職種で養成カリキュラムに心肺蘇生の演習が組み込まれています。卒業後の継続学習は日本において義務化されていませんが、最近は多くの医療機関で定期的な講習の実施へ向けた取り組みが進みつつあり、医療従事者のみならず事務職員も含めた全てのスタッフへ教育を行っている病院も増えています。更に最近では教育のあり方も研究が進み、技術を維持するためには従来の方式(2-3年ごとに集合型の講習会を丸一日行うスタイル)ではなく、数カ月に一度、短時間の自己トレーニングで技術をまめにリフレッシュするという方式が有効だと分かってきました。心肺蘇生法の教育に関する最新の推奨事項は、AHA(米国心臓協会)が今年に入ってから発表したステートメントで確認できます2)

現在日本を含めた世界各国では、5年に一度心肺蘇生のガイドラインが改訂されています。エビデンスに基づいた最新の心肺蘇生法を学びたい場合は、最寄りの消防署や日本赤十字社で開催されている講習会への参加を検討してみてはいかがでしょうか。まずは知識から、という方には厚生労働省と総務省消防庁のホームページからテキストブックをPDFで無料ダウンロードすることもできます3)

心肺蘇生法は専門家でなくても身につけられる救命技術です。これまで講習を受けたことが無かった方も、あるいは受けたけれど内容を忘れかけているという方も、MRとして、そしてひとりの市民として、これを機に知識と技術をリフレッシュして頂き、万が一の際はぜひ勇気を持って行動してください。

1)『平成29年版 救急救助の現況』,総務省消防庁
http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/fieldList9_3.html

2)“Resuscitation Education Science – Educational Strategies to Improve Outcomes From Cardiac Arrest”, AHA Scientific Statement(日本語版ハイライト)
https://cpr.heart.org/-/media/cpr-files/resus-science/ed-statement/education-statement-highlights/japanese-2018-education-statement-highlights-ucm-501753.pdf

3)『救急蘇生法の指針(一般市民用)』
総務省消防庁 http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/kyukyu_sosei/sisin2015.pdf
厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000123021.pdf

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