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MRのためのよくわかる○○○

Vol.36:「iPS細胞の臨床応用とその問題点」

皆さん、こんにちは。特派員のT.H.です。日本CSO協会のWebサイトにご来訪いただき、ありがとうございます。

今年3月に、理化学研究所などの研究グループが神戸で、他人由来の人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いた世界初の移植手術を行い、世間の注目を集めました。

2006年に京都大学の山中伸弥教授がiPS細胞の作製に成功し、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞されてから5年が経過した今、「万能細胞」と呼ばれるiPS細胞を用いた再生医療はどのような展開を迎えているのでしょうか?今回はMRとして知っておきたいiPS細胞の知識とiPS細胞技術を用いた創薬研究についてご紹介します。

まず初めにiPS細胞とは、人工的に多能性を誘導された幹細胞のことで、ヒトの皮膚など既に分化した体細胞に数種類の遺伝子を導入して培養することで分化前の状態に戻し、再度様々な組織や臓器の細胞に分化する能力(多分化能)とほぼ無限に増殖する能力(自己複製能)を持った細胞のことを指します。この細胞が持つ多分化能を応用することで、再生医療の進歩がめざましいものになると期待されています。

それでは、iPS細胞は具体的にどのような治療に活かされるのでしょうか?

現在、世界中でiPS細胞を用いた疾病治療の研究が行われています。その中でも山中教授が所長を務める京都大学iPS細胞研究所(CiRA)では、製薬企業と提携することでより充実した研究体制を確立し、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、筋ジストロフィーなどの疾病のほか、がん免疫療法、遺伝性希少疾患、難治性筋疾患に対する治療薬開発の研究に着手しています。

2014年には世界初となる患者由来のiPS細胞を用いた加齢黄斑変性の手術が日本で行われました。術後の経過は良好であり、iPS細胞を用いた手術の安全性などを示す結果が得られています。

しかし一方で、問題点も多く見つかっています。今回はその中の2点を挙げます。

1) 他家移植の問題
患者自身の体細胞から作製されたiPS細胞を用いた手術(自家移植)は、免疫拒絶反応を起こす確率が極めて低く、他人由来のiPS細胞を用いる手術(他家移植)より安全性が高いですが、その分細胞培養に膨大な時間と費用がかかるといわれています。他家移植のためのiPS細胞ストックができれば、治療(移植)への準備期間を短縮することや費用削減につながると考えられます。これらの問題解決や、より迅速な医療・研究に向け、他家移植の安全性や効果を確認する治験などが現在行われています。

2) 法令違反の再生医療
2014年11月に「再生医療安全性確保法」が施行され、ヒト由来の細胞や組織移植などの「再生医療」を行う医療機関は、厚生労働省または地方厚生局に「再生医療等提供計画」を届け出ることが必要になりました。しかし実情として、法令を無視した治療行為が行われるケースも発生しています。正式な手続きを踏まなければ医療行為の安全性も確認できないため、治療を受ける患者が大きな危険にさらされる可能性も考えられます。生物学的な面だけでなく、このような法令遵守の徹底も問題の一つになっています。

iPS細胞や再生医療について、詳しくは下記のホームページでもご確認いただけます。

・京都大学iPS細胞研究所(CiRA)
http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/

・一般社団法人 日本再生医療学会
https://www.jsrm.jp/

執筆:日本CSO協会T.H.

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