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Vol.45:ノーベル賞最有力?「免疫チェックポイント分子」について

2018年のノーベル賞は、10月1日から各賞の受賞者が順次発表されます。特に初日に発表される医学生理学賞は、2015年と2016年に連続して日本人が受賞し、最も注目される分野です。今年も日本人で有力視されている方がおられ、特に京大名誉教授の本庶佑(ほんじょ たすく)先生は最有力と言われています。本庶先生は、免疫の司令塔であるT細胞の表面に発現するPD-1(Programmed cell death 1)を発見したことが受賞候補とされる理由です。このPD-1は「免疫チェックポイント分子」のひとつで、この発見から画期的な抗がん剤が開発され、「がん免疫療法」に新たな選択肢が増えたことはご存知の方も多いのではないでしょうか。がん免疫療法は日々進化しており、今秋には日本臨床腫瘍学会の「がん免疫療法ガイドライン」の改訂が予定され、ますます注目が集まっている分野です。意外にも、この「PD-1」、当初はがん治療に有用であるとは期待されていなかったそうです。今回は、「PD-1」ががん治療への応用に至る経緯について取り上げてみたいと思います。

1.免疫チェックポイント分子とは
免疫系は自己と非自己を認識して非自己のみを排除していますが、PD-1のような「免疫チェックポイント分子」は「免疫の活性化を抑制し、過剰な免疫反応を抑える」いわば免疫反応のブレーキ役を担っています。免疫反応が暴走すると自己免疫疾患を引き起こす恐れがあるため、ブレーキをかけてコントロールしているわけです。当初PD-1は胸腺のT細胞がアポトーシス(細胞の自然死)する際に発現する分子として発見されましたが、そのメカニズムはよくわかっていなかったそうです。その後のPD-1ノックアウトマウス(特定の遺伝子の機能をこわした実験用のマウス)の研究で、マウスの免疫反応が増強することが判明したのをきっかけに、PD-1がT細胞による免疫反応を抑制する方向にコントロールしている分子であることが突き止められました。また、PD-1のリガンド(特定の受容体に特異的に結合する物質)として様々な組織でPD-L1が発見され、これがT細胞上のPD-1と結合することでT細胞の活性化が抑制されていることが分かりました。
これが、免疫系の過剰な活性化を抑え、免疫反応をコントロールする仕組みです。

2.免疫チェックポイント阻害薬
本来、T細胞の過剰な活性化を抑制するとともに、自己を攻撃しないために存在していますが、発がん過程では、がん細胞が免疫系からの攻撃を回避し増殖するために利用されます。昨今注目されている免疫チェックポイント阻害薬は、上記のブレーキの仕組みを阻害することによって免疫の活性化を持続させ、特定のがんに治療効果を発揮するもの。従来の化学療法で効果がみられなかった患者さんに一定の効果があることがわかってきています。しかしながら、全ての患者に効果が期待できるわけではなく、従来の化学療法剤と比べて副作用が少ないとされる反面、新たな副作用も報告されており、世界中で研究が行われています。

医学生理学の分野は日本の得意とする分野であり、他にも今年のノーベル医学生理学賞では、我々になじみの深い高コレステロール血症の治療薬に応用された「スタチン」を発見された先生も候補といわれています。そうした背景に着目しながら、ノーベル賞の行方に注目してみると、より楽しめるのではないでしょうか。

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